【第1回東方最萌決勝・入場SS 〜 パチュリーSIDE】
(初出:東方シリーズ板「東方最萌トーナメント 九本目」 371〜)

「それじゃパチェ、ちょっと出かけてくるわね」
「えぇ、いってらっしゃいレミィ」
「始まるまでには戻るわ。行くわよ、咲夜」
「はい、お嬢様」

 パチュリー陣営の控え室。
先ほどまで部屋には紅魔館のメンバーが揃っていたのだが、
レミリアは「向こうの控え室に挨拶に行ってくる」と言って
咲夜を連れて出て行ってしまい、部屋にはパチュリーと小悪魔、フランドール、
そして前日パチュリーに敗れたばかりの美鈴が残された。
微妙に気まずい雰囲気が控え室に漂う。
小悪魔も、そしてフランドールさえも、その空気を察知してか、一言も喋ろうとしない。

(……はぁ)
手に持った本に視線を落としつつも、心の中で一つ溜息をつくパチュリー。
(戦ってるときには「どっちが勝っても恨みっこ無し」なんて
 お互いに言ってたけど……やっぱり気まずいわね……。
 ……なんか、今回の勝負って、こんなのばっかりだわ)
考えてみれば、そうである。
――どこか近いものを感じた、人形を操る七色の魔法使い。
―――いつも図書館の平穏を壊す、けど憎めない黒白の魔法使い。
――――そして、この門番。
どこかしら自分に縁のある相手ばかりを倒して、今自分はここにいる。
決勝、という舞台の前に。
(勝ち残るってのも、なかなか気が楽じゃないわね……)

「あの、パチュリー様……」
不意に、美鈴が気まずい沈黙を破った。
「……何?」
「あの……私、全力で応援しますからっ!」
「……え?」
「応援しますから……私の、みんなの分まで頑張ってきてくださいっ!」
そう言ってふかぶかと頭を下げる美鈴。
「……」
突然のことにあっけに取られるパチュリーであったが、すぐに苦笑いを浮かべて、
「ちょっと、落ち着きなさいよ、美鈴。
 あんまり入れ込まれ過ぎても、逆にやりにくいわ」
「えっ?……す、すいません……」
「ふふ、気にしないで。その気持ちは受け取っておくわ。
 だから、応援、頼むわね」
「は、はいっ!」
張り詰めていた二人の間の空気が、ふっと和んだ、そんな気がした。



 と。
おもむろにドアがノックされる。
「? どうぞ?」
ガチャリ……ドアが開いて、
「調子はどうだ、パチュリー?」
「様子、見に来てあげたわよ」
魔理沙とアリスが顔を出した。
「……貴方たち……来てくれたの?」
「当たり前だろ?昨日の敵は今日の友、だぜ」
「そうそう、魔法使いチーム、だもの」
「……自分を倒した相手が憎いとか、そういう感情はないのかしら?」
「まあ、悔しくはあるけど……パチュリーだからな、憎いなんて事は無いぜ」
「同じく。むしろ、私たちに勝ったからには、このまま勝ってもらわないと困るわ」
そう言ってにっと笑う、いつもの調子な二人。
パチュリーもつられて笑みを浮かべる。

「そういえば、レミリアはどうした?姿が見えないが」
「あぁ、向こうのお嬢様に挨拶してくる、って、咲夜と行っちゃったわ」
「自分の友人を放って、わざわざ相手方に挨拶に?何やってるのかしら」
「レミィはああ見えて、自分が力を認めた相手には結構義理堅いからね……」
「あぁ、そういや、レミリアもあいつに負けたんだっけか」
「ええ……だから、今日の勝負は、レミィの仇討ちでもあるってわけ」
「ふーん……でも、お嬢様だけじゃなくて私たちのことも忘れないで頂戴」
「そうだぜ、これは、お前だけの戦いじゃないんだからな」
「……そうね……そうよね」
それだけ言って、目を閉じる。
(そっか、私は一人でここにいるんじゃない……こうして応援してくれる人がいる。
 なんだ、勝ち残るっていうのも、そんなに悪くないじゃない)
パチュリーの中で、もやもやが完全に吹っ切れた。
「魔理沙、アリス、ありがとう。だいぶ気が楽になったわ」
そう言って、ふふっ、と小さく笑いかける。
「……ま、まぁな、友達だし、な」
「……そ、そうそう、友達だもの、友達」
思わず照れる魔法使い二人。



「……パチュリー様、そろそろお時間です」
小悪魔が語りかける。
「……そう。それじゃ、行こうかしら」
「応援してるぜ」
「勝ちなさいよ、ここまで来たら」
「パチュリー様、ファイトです」
「パチュリー、頑張ってねー」
「……あの、お体にはどうか気をつけてくださいね」
それぞれの声援を受け、部屋を出て薄暗い通路を進むパチュリー。

 と。
「……パチェ」
「……レミィ……随分遅かったわね」
通路の先にレミリアと咲夜の姿があった。
「遅くなってごめんなさい。で……」
「……」
「もう時間もないから、手短に言うわ。
 頑張りなさい。私の大切な友人として、そして紅魔館の代表として。
 ……それだけよ」
言って、右手を差し出すレミリア。
「……ええ」
その手を、パチュリーはがっちりと握り締めた。

薄暗い通路の先が、少しずつ明るくなってきた。応援の声が、聞こえる。
脇に抱えた魔道書を、今一度強く握り締める。
「さて、最後の一ページ、綴ろうかしら」


―― パチュリー・ノーレッジ、入場。