【第1回東方最萌決勝・開幕SS】
(初出:東方シリーズ板「東方最萌トーナメント 九本目」 375〜)

 幻想郷の片隅にいつの間にか作られた、特別なステージ。
ここで一月に渡って繰り広げられた戦いも、いよいよ最後。
場内は、まだ試合前であるにも関わらず、
幻想郷にこれだけ人や妖怪がいたのか、というほど、異様な熱気に包まれていた。

 そんな中、観客席の一角では……。
「なぁ霊夢、お前はどっちが勝つと思う?」
「……さあね……こればっかりは、見てみないと分からないわ」
「私は亡霊のお姫様だと思うわ。同じ霊だもの、応援しなきゃね」
「あんたは霊は霊でも悪霊でしょうが」
「魅魔様にそう言われちゃうと、パチュリーを応援しにくいぜ」
「あら、気にしなくて良いのよそんなこと。勝負ごとは自分の好きなように楽しまなきゃ」
「そうか?んじゃ、遠慮無しでいくぜ」
(さっきから、一緒にいるのに忘れ去られてる気がするわ……しくしく)
霊夢と魔理沙と魅魔……と、アリス。

「ふあぁ……」
「? どうしたのレティ、眠いの?」
「えぇ、本当ならもう少し眠ってる時期だから……。
 でも、この勝負は最後まで見守るわ。終わったら冬までもう一眠りよ」
「ねぇ、こっちの子も凄く眠そうなんだけど……」
「ふあぁ……(うつらうつら……)」
レティとチルノ、大妖精にリリーホワイト。
「おなかすいたー、今のうちにごはんー♪」
その傍らで、無邪気に食事中のルーミア。
「せっかく久し振りにこっちに来たんだ、この勝負だけでも見ていくぜ」
なにげに、ちゆりもいた。

「……お嬢様」
「なぁに、咲夜」
そんな中、レミリアに咲夜が問い掛ける。
「お嬢様は、どちらを応援なさるおつもりなのですか?」
「あら、私が大切な友人を応援しないとでも思ってるの?」
「い、いえ、そんなことは……」
「……なんて。やっぱり分かったかしら」
「え?」
「正直に言うと、どっちも応援してるわ。半々、ってところね。
 だから、ちょっと細工をさせてもらったわ」
「細工、ですか?」
「そう……2人と握手をしたときにね。
 2人の、この試合の勝敗に関する運命を、消し去っておいたの」
「……なぜ、そのようなことを?」
「だって、勿体無いじゃない。こんな面白い勝負の結果が、運命であらかじめ決まってるなんて。
 あくまで、勝敗を決めるのは、あの二人と支援者たちの頑張り。それだけよ」
言って、レミリアはふふっ、と笑った。



「さぁ、盛り上げていきますよ―!パチュリーコール、いきます!」
どこから持ってきたのやら、「必勝」の鉢巻を頭に巻いて、美鈴が声を張り上げる。
「そーれ、パ・チュ・リー! パ・チュ・リー!」
それに小悪魔とフランドールが合いの手を入れる。
やがて、パチュリーコールが場内に波及し始めた。

「「「「「パ・チュ・リー! パ・チュ・リー!」」」」」

それに慌てたのは、妖夢。
「!? まずい、負けてられない! こっちも幽々子様に声援を送らないと!」
一歩遅れて、幽々子コールを開始する。
その手にはどこから持ってきたのやら、「頑張れ幽々子様」と書かれた応援旗。
「そーれ、幽・々・子! 幽・々・子!」
「私たちも手伝うぞ、橙!」
「はーい! ……って、藍さま藍さま、あれ」
「……え?」
橙の指差した、その先には。
「ZZZzzz...」
「! 紫様、こんなときに寝ないでくださいっ! もうすぐ試合始まりますよ!?」
「ん〜……試合始まったら起こして〜……むにゃむにゃ」
「……あー、もう!」
ともあれ、幽々子コールも次第に場内に波及していく。
やがて場内は、両陣営のコールに包み込まれた。

「「「「「パ・チュ・リー! パ・チュ・リー!」」」」」
「「「「「幽・々・子! 幽・々・子!」」」」」

「賑やかだね〜、メルラン姉さん」
「そうね〜、凄い熱気」
「こらこら、二人とも。私たちの仕事、忘れてないだろうな」
「大丈夫よルナサ姉さん、ちゃんと準備は出来てる〜」
「リリカに同じく。こっちも準備OKよ〜」
「よしよし。ん、そろそろ時間だ……」

 と、ここで場内の明かりが一斉に消えた。
コールが収まり、場内がしん、と静まり返る。
次の瞬間、その一瞬の静寂を掻き消すように、
騒霊3姉妹の奏でるファンファーレが場内に響き渡った。
ファンファーレが終わり、再び場内に静けさが戻ると、
互いの入場口から、中央のステージに向かって一筋の明かりが灯された。

 そして。
両者が同時に、入場口から姿を現した。



 観客席から、割れんばかりの拍手が起こる。
拍手の中、中央のステージまで進んできた二人は、向かい合って、足を止めた。
「ごきげんよう、魔女っ子さん。体の調子はいかがかしら?」
「おかげさまで。だいぶ良いわ」
「生き物って大変ね、自分の体調とも戦わなきゃいけない。
 そこいくと、幽霊には病気なんて無いから気楽で良いわ」
「それはそれは、羨ましいことね」
「なんなら、貴方も幽霊になってみる?」
「やめておくわ。死ぬにはまだまだ知らない事が多すぎるもの」
「それは残念」
そこまで言って、互いにふふっ、と笑みを浮かべる。

「さてと。 じゃ、そろそろ始めさせてもらおうかしら」
そう言って、幽々子が手に持った扇を広げる。
と同時に、その周囲を強烈な瘴気が包み込んでゆく。
「いいわ、ちょうど喋るのに疲れてきたところよ」
応えて、パチュリーも魔道書を広げる。
と同時に、その周囲に強い魔力が展開されてゆく。





――― 支援者たちの想いを、


「「それじゃあ」」


―――― そして、敗れた22名の少女たちの想いを、乗せて。



「西行妖の力、見せてあげるわ、病弱魔女!」
「親友の仇、取らせてもらうわ、冥界の姫!」



――――― 東方最萌トーナメント 決勝戦、開幕。