幻想郷の片隅にいつの間にか作られた、特別なステージ。 ここで一月に渡って繰り広げられた戦いも、いよいよ最後。 場内は、まだ試合前であるにも関わらず、 幻想郷にこれだけ人や妖怪がいたのか、というほど、異様な熱気に包まれていた。 そんな中、観客席の一角では……。 「なぁ霊夢、お前はどっちが勝つと思う?」 「……さあね……こればっかりは、見てみないと分からないわ」 「私は亡霊のお姫様だと思うわ。同じ霊だもの、応援しなきゃね」 「あんたは霊は霊でも悪霊でしょうが」 「魅魔様にそう言われちゃうと、パチュリーを応援しにくいぜ」 「あら、気にしなくて良いのよそんなこと。勝負ごとは自分の好きなように楽しまなきゃ」 「そうか?んじゃ、遠慮無しでいくぜ」 (さっきから、一緒にいるのに忘れ去られてる気がするわ……しくしく) 霊夢と魔理沙と魅魔……と、アリス。 「ふあぁ……」 「? どうしたのレティ、眠いの?」 「えぇ、本当ならもう少し眠ってる時期だから……。 でも、この勝負は最後まで見守るわ。終わったら冬までもう一眠りよ」 「ねぇ、こっちの子も凄く眠そうなんだけど……」 「ふあぁ……(うつらうつら……)」 レティとチルノ、大妖精にリリーホワイト。 「おなかすいたー、今のうちにごはんー♪」 その傍らで、無邪気に食事中のルーミア。 「せっかく久し振りにこっちに来たんだ、この勝負だけでも見ていくぜ」 なにげに、ちゆりもいた。 「……お嬢様」 「なぁに、咲夜」 そんな中、レミリアに咲夜が問い掛ける。 「お嬢様は、どちらを応援なさるおつもりなのですか?」 「あら、私が大切な友人を応援しないとでも思ってるの?」 「い、いえ、そんなことは……」 「……なんて。やっぱり分かったかしら」 「え?」 「正直に言うと、どっちも応援してるわ。半々、ってところね。 だから、ちょっと細工をさせてもらったわ」 「細工、ですか?」 「そう……2人と握手をしたときにね。 2人の、この試合の勝敗に関する運命を、消し去っておいたの」 「……なぜ、そのようなことを?」 「だって、勿体無いじゃない。こんな面白い勝負の結果が、運命であらかじめ決まってるなんて。 あくまで、勝敗を決めるのは、あの二人と支援者たちの頑張り。それだけよ」 言って、レミリアはふふっ、と笑った。 「さぁ、盛り上げていきますよ―!パチュリーコール、いきます!」 どこから持ってきたのやら、「必勝」の鉢巻を頭に巻いて、美鈴が声を張り上げる。 「そーれ、パ・チュ・リー! パ・チュ・リー!」 それに小悪魔とフランドールが合いの手を入れる。 やがて、パチュリーコールが場内に波及し始めた。 「「「「「パ・チュ・リー! パ・チュ・リー!」」」」」 それに慌てたのは、妖夢。 「!? まずい、負けてられない! こっちも幽々子様に声援を送らないと!」 一歩遅れて、幽々子コールを開始する。 その手にはどこから持ってきたのやら、「頑張れ幽々子様」と書かれた応援旗。 「そーれ、幽・々・子! 幽・々・子!」 「私たちも手伝うぞ、橙!」 「はーい! ……って、藍さま藍さま、あれ」 「……え?」 橙の指差した、その先には。 「ZZZzzz...」 「! 紫様、こんなときに寝ないでくださいっ! もうすぐ試合始まりますよ!?」 「ん〜……試合始まったら起こして〜……むにゃむにゃ」 「……あー、もう!」 ともあれ、幽々子コールも次第に場内に波及していく。 やがて場内は、両陣営のコールに包み込まれた。 「「「「「パ・チュ・リー! パ・チュ・リー!」」」」」 「「「「「幽・々・子! 幽・々・子!」」」」」 「賑やかだね〜、メルラン姉さん」 「そうね〜、凄い熱気」 「こらこら、二人とも。私たちの仕事、忘れてないだろうな」 「大丈夫よルナサ姉さん、ちゃんと準備は出来てる〜」 「リリカに同じく。こっちも準備OKよ〜」 「よしよし。ん、そろそろ時間だ……」 と、ここで場内の明かりが一斉に消えた。 コールが収まり、場内がしん、と静まり返る。 次の瞬間、その一瞬の静寂を掻き消すように、 騒霊3姉妹の奏でるファンファーレが場内に響き渡った。 ファンファーレが終わり、再び場内に静けさが戻ると、 互いの入場口から、中央のステージに向かって一筋の明かりが灯された。 そして。 両者が同時に、入場口から姿を現した。 観客席から、割れんばかりの拍手が起こる。 拍手の中、中央のステージまで進んできた二人は、向かい合って、足を止めた。 「ごきげんよう、魔女っ子さん。体の調子はいかがかしら?」 「おかげさまで。だいぶ良いわ」 「生き物って大変ね、自分の体調とも戦わなきゃいけない。 そこいくと、幽霊には病気なんて無いから気楽で良いわ」 「それはそれは、羨ましいことね」 「なんなら、貴方も幽霊になってみる?」 「やめておくわ。死ぬにはまだまだ知らない事が多すぎるもの」 「それは残念」 そこまで言って、互いにふふっ、と笑みを浮かべる。 「さてと。 じゃ、そろそろ始めさせてもらおうかしら」 そう言って、幽々子が手に持った扇を広げる。 と同時に、その周囲を強烈な瘴気が包み込んでゆく。 「いいわ、ちょうど喋るのに疲れてきたところよ」 応えて、パチュリーも魔道書を広げる。 と同時に、その周囲に強い魔力が展開されてゆく。 ――― 支援者たちの想いを、 「「それじゃあ」」 ―――― そして、敗れた22名の少女たちの想いを、乗せて。 「西行妖の力、見せてあげるわ、病弱魔女!」 「親友の仇、取らせてもらうわ、冥界の姫!」 ――――― 東方最萌トーナメント 決勝戦、開幕。 |