【第1回東方最萌決勝・決着SS】
(初出:東方シリーズ板「東方最萌トーナメント 十本目」 25・40〜)

 場内に、勝負の終了を知らせる鐘が鳴り響いた。
その瞬間、ステージの中央での、瘴気と魔力のぶつかり合いが、ふっ、と止む。
場内は水を打ったように静かになった。

 激闘が、終わって。
幽々子も、パチュリーも、ステージの上でへたりこんでいた。
23時間に及んだ闘い……それは二人から、今や立っている力すらも奪っていた。
「終わった……のね……」
「けほっ、けほっ……そうみたいね……」
「病弱だっていう割に、23時間、よく持ったわね」
「そういう貴方も……最後、よく消滅しなくて済んだわね」
「ふふふ……ともあれ、お疲れ様」
「ええ、そちらも」
お互い、ゆっくりと立ち上がり、歩み寄って握手を交わす。
その瞬間、静まり返っていた場内から、拍手が起きた。
拍手はやがて、会場を、二人を、温かく包み込んだ。

「さて……勝敗はどうなったのかしら」
「さあね……決めるのは私たちじゃ無いし」
「まあ、これだけやったんだし、どっちが勝っても文句は無いけど」
「奇遇ね、私もそう思うわ」
言って、お互いに笑い合う。

 と、そのとき。
「はいはい、道を空けて〜。ボード入るわよ〜」
アリス(と、台車)によって、両者の得票を示すボードが場内に運び込まれる。
「ん、結果、出たみたいね」
「そのようね」

 場内が暗くなり、幕をかぶせられたボードとその周辺のみが照らし出される。
そして場内に鳴り響く騒霊3姉妹のファンファーレ。
その終了と同時に、ボードにかけられた白い幕が、ゆっくりと外されていく。



「「さて、結果は……」」










 ボードにかけられていた幕が、完全に外れた。
そこに記されていた値は、

「西行寺 幽々子 234 - 185 パチュリー・ノーレッジ」


 それは、幽々子の勝利を、示していた―――。


 場内に湧き上がる、歓声。紙吹雪が、舞い散る。
「勝った、のね……」
当の幽々子は、呆けたようにボードを見つめたまま動かない。
「ふふ、でも、最後もやっぱり楽な勝負じゃなかったわね……」
「ゆ〜ゆ〜こ〜さ〜まぁ〜〜〜!」
唐突に、後ろから駆け寄ってくる足音。
妖夢が、いても立ってもいられずに応援席から飛び出してきたのだ。
「幽々子様、優勝、おめでとうございますっ!」
「妖夢……応援、ありがとう。とっても、心強かったわ」
「あ……いえ、それが私の、従者としての務めですからっ!」
妖夢の顔が、かすかに朱く染まる。
「優勝おめでとう、幽々子」
「ありがとう、紫。長い勝負だったけど、寝てなかったでしょうね」
「失礼ね〜、勝負の間はちゃんと起きてたわよ。
 おかげで今は眠くて眠くて……ふあぁ……」
「始まる直前までは、寝てましたけどね」
「藍、あなたは余計なこと言わなくていいの」
「……失礼いたしました……」
あはは、と、和やかな笑いに包まれる幽々子陣営。

 一方。
「負け、ちゃった、か……」
パチュリーもしばし、じっとボードを見つめていた。
「……パチェ」
「……レミィ……ごめんなさい、仇、取れなかったわ」
「いいえ、決勝にふさわしい素晴らしい戦いぶり、存分に見せてもらったから。
 それだけで十分、満足よ。それに、あなたも満足してるんでしょう?」
「……まぁね……むしろ、すがすがしい位だわ」
「なら、いいじゃない」
「そういうものかしら」
「そういうものよ、きっと」
二人は顔を見合わせて、笑った。



 会場は、いつ止むとも知れぬ、温かな拍手に包まれていた。
そこにはもはや、勝者も、敗者も、ない。
ただ誰もが、23時間の激闘を演じた両者の健闘を、惜しみなく称えていた。


「さて、これから打ち上げの宴よ、妖夢。準備はいい?」
「はいっ、大丈夫です!」
「さあ、ここからは皆で、宴を楽しみましょう!」



――― こうして、一つのお祭りが、終わりを告げた。



―――― 明日から、またいつもの幻想郷の日常が、始まる。



――――― 東方最萌トーナメント  完

         両陣営、そして運営の皆様、お疲れ様でした。