「お疲れ様、アリス」 勝利を収め戻ってきたアリスを出迎えたのは、霊夢だった。 「え?……あ、あー、まぁ、当然よ、うん」 口から出るそんな台詞は勿論強がり。 実際はひどく危ない戦いであったことは言うまでもない。 「これで次はアリスと、かぁ。もうちょっと上でやりたかったけどね」 霊夢の口から漏れたそんな暢気な台詞。 それがアリスの心に微かなイライラを生んだ。 「……霊夢」 「……?何?」 「次のことを考える前に、まずは目先の戦いのことを考えたらどうなの!?」 「アリス……?」 「確かにあんたの相手は弾幕ごっこの実力だけ見れば格下かもしれないけど、 だからって油断していると足元すくわれるわよ!? いい!?こんなところで負けたら絶対に許さないからね!?」 「……わ、わかってるってば。ごめん、ちょっと無神経だったわ」 「……うぅん、私もちょっと熱くなりすぎたわね、ごめん」 「でも……ありがと、アリス。おかげで気合が入ったわ」 「……いえいえ、それはどういたしまして」 ふっ、と張り詰めた空気が解ける。 「……じゃ、そろそろ時間だし、行ってくるわね。見てて頂戴」 「えぇ。上で、待っているから。 いい?くれぐれも、気を抜かないようにね?」 「分かってるわよ。……こんなに応援してくれる相手が近くにいるのに、 みっともない戦いは見せられないでしょ」 そう言って笑みを浮かべる霊夢に、思わず赤面するアリス。 アリスが我に返ったとき、既に霊夢の姿は通路の向こうに消えようとしていた。 その背中を見つめながら、アリスは呟いた。 「……勝ちなさいよ、霊夢。あなたを、倒すのは、……」 その先の言葉は誰にも聞かれることなく、消えていった。 「お疲れ様でした、パチュリー様、あの……」 「ごめん、ちょっと休ませて、流石に疲れたわ……」 パチュリーは戻ってくるなり倒れこむようにソファに横たわった。 側近である小悪魔でも、ここまで疲弊したパチュリーを見るのは珍しい。 「……あの、残念、でしたね……」 「いいのよ、相手が一枚上手だっただけ。 こういうのがトーナメントの怖さよ……それよりも」 小悪魔の顔をじっと見つめるパチュリー。 「?」 「あなたの試合はこれからでしょう?私の心配なんてしないで自分に集中なさい」 「で、ですが、私はパチュリー様のことが心配ですし、 それに私の相手は……私なんかじゃ、とても」 はぁ、とパチュリーが溜め息をつく。 「あのね。あの子……アリスは、今日の戦いの前にこう言ったわ。 『波乱は起こるものじゃない、起こすものだ』って。 そしてその言葉どおり、波乱は起こされ、私は負けたわ……」 「パチュリー様……」 「あなたも信じることよ、『波乱を起こすんだ』、ってね。 こういう場では、それが時として大きな力となるわ。 その力があれば、あの紅白にだって立ち向かうことが、できるはずよ」 「……はい……ありがとうございます、パチュリー様。 そうですね、どこまでやれるか分かりませんけど、やれるだけやってきます」 「そう、その意気よ。 ……さぁ、そろそろ時間よ、行ってらっしゃい。 私も少し休んだら見に行くからね」 「はい!行ってきます!」 部屋を出て行く小悪魔。その背中を見つめながら、パチュリーは呟いた。 「私の分まで……大暴れしてきなさいね……」 そして、パチュリーの意識は、まどろみの中へと落ちていった。 |