「霊夢、お疲れ」 「お疲れ様、だぜ」 霊夢を出迎えたアリスと魔理沙。 「あー、うん、ありがとね。 にしても、あの小悪魔があれほどやるとは思わなかったわ……。 アリスが気を引き締めてくれなかったらどうなってたか」 「そうよ?感謝しなさいよね。 このトーナメント、ひと波乱起こそうとしてるのはいくらでもいるわ。 1戦1戦、下手な油断なんてできない、ってこと。 ……で?その辺分かってるの?そこのあんたは」 「……ほへ?私かえ? 相手が誰であれ、私がやることは一つだ。 必殺の魔砲で吹き飛ばす、それだけだぜ」 「……やれやれ、あんたの心配した私が間違いだったわ」 呆れたような表情を浮かべるアリス。つられて霊夢も苦笑する。 「で、魔理沙、行かなくていいの?もう時間じゃない?」 「は?何を言ってるんだ、霊夢。 次の試合はフランとあのちっこいので、私の対戦は次の次だろ?」 魔理沙の思いもよらない言葉に、アリスと霊夢の表情も流石に凍りつく。 「……魔理沙、あんた、本気で言ってるの? 特別日程でそのカードは後に回ってるの、だから次はあんたの試合! ほら、よく見なさい!」 トーナメント日程を手渡すアリス。目を通した魔理沙の顔が、みるみる青ざめていく。 「……げっ、本当だ!うわわ、不戦敗なんて洒落にもならん! すまん、アリス、霊夢、行ってくるぜ!!それじゃ!!」 ばたばたと慌しくステージへの通路を駆けていく魔理沙。 「……やれやれ、さっきまであれだけ落ち着いてたのは何だったのやら」 「全くだわ。まぁ、あいつなら心配ないとは思うけど。 ……ねぇ、霊夢」 「ん?」 「……おめでとう」 「……ありがと」 「でも……負けないからね」 「こちらこそ」 「うぅぅ……どうしようかしら」 通路のベンチに腰を下ろすミスティア。その表情は冴えない。 「初めての大会で、よりにもよって相手があの魔法使いだなんて……。 勝てるわけないじゃないのよー……はぁ……」 脳裏に浮かぶはあの秋の夜。あの夜のことは、自分から勝負を吹っかけたこと、 相手が2人がかりだったことを考慮してもなお、ミスティアにとって悪夢であった。 嫌なことを思い出し一層表情は沈む。と、 「ちょっと、そこのあんた!」 いきなり声をかけられて、驚きつつも顔を上げた。 そこにいたのは水色の髪の氷精。 「……あんたは確か、大会参加者の」 「チルノよ。あんたの次の試合に出るわ」 「そう。で、何か用なの?悪いけど今ちょっと試合前で気が立ってるんだけど」 「それよ!」 「は?」 「試合前だってのにあんた、全っ然気合入ってないみたいじゃない! そんな元気のない表情されると、こっちにまでうつっちゃうのよ!何とかしなさい!」 「そ、そんなこと言われたって仕方ないでしょ!? あの白黒になんて、勝てるわけ……!」 「何言ってんの!?勝てるとか勝てないとか、そんなことはどうでもいいの! やる前から諦めてどうすんのよ!?」 「な……あんたに何が分かるってのよ!?」 「分かるわよ!……私だって……相手はあの吸血鬼だもん」 はっとするミスティア。チルノもまた、実力的には段違いの相手と戦おうとしているのだ。 「そりゃ怖いのは分かるわよ……普通に考えればかないっこない相手だもん。 でもね、私はおとなしく負けてやるつもりなんて、全っ然ないんだから! のこのこ出てってあっさり負けてはいおしまい、なんてつまんないでしょ!?」 「……チルノ……」 「いい!?別に負けたって殺されるわけじゃないんだから! 当たって砕けて一泡でも吹かせられれば儲けもの、ってくらいで行ってきなさい!」 「当たって砕けて一泡でも……か。 ……ふふ、そうよね、そのくらいの気持ちなら気も楽だわ」 ミスティアはすっくと立ち上がり、眼前のチルノの頭をわしゃわしゃ、っと撫でた。 「ありがと、チルノ。あんたには今度、とびっきりの歌を聴かせてあげるから」 「……わ、わかったんならいいのよぉ!ほ、ほら、さっさと行ってきなさいよぉ!」 顔を真っ赤にしながら照れ隠しに怒鳴るチルノ。 そんなチルノの様子に、ミスティアはくすっと笑って。 そして、ふわりと身を翻すと、ステージへの通路を歩き始めた。 「……見てなさい白黒。今日はあんたに、最高のショーを見せてあげるわ」 |