「……結局、今の今まで現れず、か」 ステージの上、まだ来ぬ対戦相手を待ちながら、八意永琳は呟いた。 昨日も、ウドンゲの試合だったというのに、 控え室にも観客席にもてゐは姿を見せていなかった。 恐らくは別行動で応援はしていたのだろうと思うが、 それでもこうまで避けられてしまうと少し複雑な気分である。 「全く、亭の内部分裂でも起こそうっていうのかしら。恨むわよ」 ランダムのはずのトーナメント表にまで、永琳の愚痴は及んだ。 実際、この組み合わせの時点で、引き分けでも起こらない限り ベスト8には自分とウドンゲとてゐのうち良くて1人しか残れない。 こうまで偏っていてはランダムの意味がないではないか、それに……。 「えーりん」 「姫は姫で離れたかと思えば前回優勝者となんて当たっちゃって負けちゃうし。 そりゃ姫も善戦したとは思うけど、幾らなんでもくじ運が悪すぎるわよねぇ」 「……えーりん」 「もうほんとこれは私たちに対する何者かの悪意が働いているとしか」 「えーりんっ!!」 「はいぃっ!?」 唐突に自分の世界から引き戻される永琳。 いつの間に現れたのか、久し振りに見るてゐの姿がステージ上に。 「えーりん、私のこと無視してた……ひどい」(じわっ) 「いやあのてゐ、違うのよ、これはね」 「……きらいっ」(ぷいっ) てゐはそっぽを向いて、肩を震わせ顔を覆ってしまった。 (がーんっ!?) 冷静沈着なはずの永琳の精神にもさすがに衝撃が走る。 只でさえ、ぶつぶつと自分の世界に入っていたところを見られたというのに、 それで泣いたりされた日にゃ、自業自得とはいえ誰でもショックである。 「あ、ぁ、てゐ、ごめんね、ごめんね、どうか機嫌を直して……」 もはや普段の落ち着き払った月の頭脳の面影はどこにもない。 一方、てゐはといえば。 (ふっふーん、まずは「いにしあちぶ」げっとー♪) 泣き真似しつつ、見えないように、舌を出して笑っていた。 こういう、単純な力量に差がある相手との勝負では、 相手の精神面から攻めることが重要だということを、 もともとあまり力の強い方ではないてゐはよく分かっていたのである。 目上相手でも容赦なし、これぞまさに古の詐欺師――エンシェントデューパー、因幡てゐ。 一方そのころ。 「あー、遅くなっちゃった、早く師匠とてゐを応援しないと……って、 え……師匠が、てゐに、謝ってる?……何が、起こってるの……?」 試合から戻って、ようやく応援席に駆けつけた鈴仙は、 思いがけぬ光景に何が起こっているのかわからず目を白黒させていた。 のっけから波乱含みの展開を見せる、 最萌トーナメント2回戦第2試合……もとい、永遠亭最強決定戦(てゐ談)。 はたして、姫亡き今、永遠亭の覇権を握るのは、薬師か、詐欺師か! そして―――それを見守る鈴仙の、明日は、どっちだ!? (※一部、文章中に過大な表現が含まれましたことをお詫び申し上げます) |