「お久しぶりです、紫さん」 「本当に久しぶりねぇ」 ステージ上でなぜか暢気に挨拶を交わすルナサと紫。 「妹さんたちは……相変わらず元気みたいね」 客席の一角を見やりながら呟く紫。 その視線の先では、「姉さんを応援よ〜」などと言いながら、 メルランとリリカが音楽とも騒音とも知れぬ演奏をかき鳴らしていた。 「元気すぎて困ってるくらいですよ……まったく、こっちの苦労も分かってほしい」 「ふふ、あなたも苦労してるのねぇ。一家の長として、私もよく分かるわ、その気持ち」 このとき、心中で「嘘だ!絶対にそれは嘘だッ!!」とルナサは思った……が、 後が怖いのでとりあえず話題を変えておくことにした。 「で、……勝負、らしいですけど」 「そうねぇ。でも大丈夫なのかしら? あなたたちの演奏は、3人が一体となって初めて完成する。 あなた1人で、私に対して勝算はあるのかしら?」 「この期に及んで相手の心配とはまた、余裕ですね……。 ですが、ソロは専門外だと思われたのなら、心外ですよ」 言って、ルナサは両手をかざす。 その刹那、中空に現れたるは、1本のヴァイオリン。 「私にはこの『神弦』・ストラディバリウスがあります……。 たとえ1人でも、3人での演奏に劣りはしませんよ」 「それは失礼をしましたわ。 けれど、それでもあなたは私には勝てない、ルナサ。 あなたがいかに聴衆を魅了する旋律を奏でようとも。 私がちょっと境界を弄れば、ただの騒音に成り下がる」 「……それならば。 聴衆に旋律で訴えるのをやめて、あなたを騒音で攻め立てるまでですよ」 「あらあら、これは耳栓を用意しないといけなそうね」 にやっ、と、お互い裏のある笑いを浮かべあって。 「さて、そろそろお喋りにも疲れました。始めさせてもらいますよ」 「そうね。始めましょうか、一夜の宴を!」 最萌トーナメント2回戦第4試合、ルナサ・プリズムリバーvs八雲紫。 樂典の頁は、今、開かれた―――。 |