【第2回東方最萌 2回戦 神綺 vs 橙】
(初出:第2回東方最萌板「第2回東方最萌トーナメント 21本目」328・329)

「橙、いよいよだな」
「はい!もう待ちくたびれちゃいましたよ〜」
ステージに通じる通路。
今まさに戦いに挑まんとする橙の傍には、見送りにきた藍の姿。
「まったく、紫様は自分の試合が終わって以降、姿もお見せにならない。
 せめて橙の見送りにくらい現れても良いのに」
「きっと……私と藍さまに、気を利かせてくれたんじゃないですか?」
「気を、ねぇ……だと、いいんだが。
 で、橙」
「はい?」
「大丈夫か?怖くは、ないか?」
「え?どうしてですか??」
「相手は……まがりなりにも、魔界の神、だぞ」
「ん〜、私はあんまり魔界は詳しくないから、
 神様、って言われてもあんまりぴんとこないです〜。
 それに……見た感じですけど、あの人よりも紫さまのほうがよっぽど強そうです」
「……くくくっ、それは確かにそうかもしれないな」
「ねぇ、藍さま」
「なんだ?」
「もし、勝てたら……褒めて、くれますか?」
「……あぁ、勿論だとも。
 そりゃもう、思いっきりぎゅーっとしてなでなでしてやるとも!」
「本当ですか!?よ〜し、張り切ってがんばっちゃおーっと!
 それじゃ藍さま、行ってきますねーっ!」
「あぁ、頑張ってこい、橙!」
飛翔韋駄天よろしく、ステージ目指して駆け出す橙。
その後ろ姿を見ながら、藍は、
(あぁーもーぅ、かわいいなぁー橙はーーー!!)
などと心の中で絶叫し、悶えていた。

 橙も、藍も、気付いていなかった。
自分たちの後ろの空間、微かに開いたスキマから覗いていた視線に。
「橙ちゃん……しっかりやりなさいな」










「懐かしいわね……この、外界の、感覚」
通路からステージを見やりながら、神綺は呟いた。
かつて、思いもよらぬ侵入者によって、魔界が未曾有の大打撃を受けてから。
神綺は、そして魔界は、一旦、表の世界との接触をすっぱりと絶ち。
以降しばしの間、魔界は少々寂しくはなったが、徐々に平穏を取り戻してきていた。
そう、あの日……一人の魔法使いが、突如、表の世界へ飛び出していくまでは。
「本当、久しいわね……アリス」
後ろに立つ気配に向けて、神綺はそう呟いた。
「神綺……さま」
「まったく、あなたも昔から心配ばかりかける子よね。
 どうなの?こっちでの暮らしは」
「あの……私、は、その」
「……何を恐れているのか知らないけれど。
 私は別にあなたが出て行ったことを怒ってはいないわよ?
 そりゃ、出て行ったと聞いたときはびっくりもしたけど。
 でも、あなたが決めたことなら、好きにすればいいと思ってるの。
 ……けどね、アリス」
「……?」
「たまには……魔界にも、顔を出しなさいな。
 ユキもマイも夢子も、みんな心配してるんだからね、あなたのことは」
「神綺……さま……」
「もう一度聞くわ。こっちでの暮らしは、順調なの?」
「……えぇ。いろいろ騒がしいですけど、楽しく、やっています」
「……そう。それなら、いいの。
 さて、私はそろそろ行くわね。たまには魔界の神として、存在感を示してこないと」
「あの」
「……何かしら?」
「ご武運を、お祈りしています……神綺さま」
「……ありがとう」
背を向けたままでそう答え、神綺はゆっくりステージへと歩を進めていった。
残されたアリスも、身を翻し、観客席へ向けて歩き始めた。
この大会が終わったら、1度帰ってみるのもいいかもしれない。そう思いながら。