【第2回東方最萌 2回戦 十六夜 咲夜 vs 上海人形】
(初出:第2回東方最萌板「第2回東方最萌トーナメント 22本目」426)

「……人形、か」
ステージの上、瀟洒なメイド・十六夜咲夜は、眼前の対戦相手を見て、呟いた。
そう、そこにいるのは中空に浮かぶ1体の……人形。
人形師・アリスの使い魔、上海人形である。

「……きょうは よろしく おねがいします、いざよい さくやさん」
そう言って、ぺこり、と上海人形は頭を下げた。
さすがにあの人形師の作品だけあって、礼儀の出来た人形だ、と咲夜は思った。
どこぞの礼儀知らずにも見習ってもらいたいもんだ、と、
たびたび図書館を荒らしていく黒い魔法使いを思い浮かべ、苦笑する。
「……これはこれはご丁寧に、こちらこそよろしくお願いしますわ。
 けど、あなた、マスターなしで戦えるの?」
「はい、マスターは わたしを じりつして うごけるように つくって くれました。
 まりょくの せいせいから こうげきまで、ぜんぶ わたしだけで かのうです」
訥々と答える上海人形。そのさまはあたかも、本当に生きているかのようで。
けれど。
やはり人間や妖怪の持つ独特の『生気』が、目の前の上海人形からは感じられない。

(……まるで、一昔前の誰かさんのようね)
咲夜は自嘲した。生きる気力さえもなくし、ただ彷徨っていた、あの頃の自分。
(……けれど)
いつしかこの世界に迷い込んで。お嬢様と、出会って。
そして今、自分は、確かに、こうして、生きているのだ。
そんなことを考えながら。
「そう……意外に出来がいいのね」
咲夜は、呟いた。
と、次の瞬間。その手に、幾本ものナイフが握られていた。
「……でも、これは勝負。こっちも遠慮は、しないわよ」
前回のこの大会。実力的に下のはずの春の妖精に足元をすくわれた、あの屈辱。
それを繰り返したくは、ない。

「……こちらこそ、えんりょは なしです。
 マスターからも ぜんりょくで いけと おたっしを うけて いますので」
そう答え、両手を上げてレーザーの発射体制に入る上海人形。
そのとき、その無表情だった顔に、微かに笑みが浮かんだような、気が、した。

「さぁ、ナイフの海で躍らせてあげるわ、お人形さん!」
「……まけ、ません!マスター、どうか わたしに ちからを!」