【第2回東方最萌 2回戦 藤原 妹紅 vs 魅魔】
(初出:第2回東方最萌板「第2回東方最萌トーナメント 24本目」459・469)

藤原妹紅の、控え室。
「妹紅」
「……慧音か、どしたの?」
「いや、まぁ、様子を見にきたんだが。
 その様子じゃ問題はなさそうだな」
「まあ、一応調子は万全よ。
 あとは、悪霊さんとやらにどれだけ通用するか、ね」
「……いつも言っているが、無茶は、するなよ?」
「あーはいはい、分かってますって」
いつものこと、と、忠告を軽く受け流す妹紅。
いつもなら「まったく……」などと言いつつ、ここで慧音も矛を収めるところだ。
……が、今日の慧音の反応は、違った。
「……分かってないだろう!いつもいつも、ボロボロになって帰ってきて……!
 私がいつもどれだけ心配していると思ってるんだ!」
「ちょ、ちょっと、慧音、落ち着いてっ」
「あ……すまない、つい取り乱した」
「うぅん……確かにいつも心配かけっぱなしだもんね。ごめん」
そのまま、控え室に沈黙が訪れる。

 沈黙を破ったのは、思いがけない人物だった。
「……まったく、人が折角来てみれば、何よこのお通夜みたいな雰囲気は」
「……輝夜っ……!」
「貴様、何をしに来た!?
 妹紅はこれから試合なんだ、お前の遊びの相手になら私がなる!」
「……何を勝手に勘違いしてるんだか。今日はそのつもりはないわよ。
 ただ一言伝えに来ただけ。終わったら帰るわよ」
「一言、ですって……?」
「一回しか、言わないわよ?
 絶対に、勝ちなさい。
 私は早々に負けちゃったから、知り合いの応援しかできなくて退屈なの。
 これ以上、数少ない楽しみを奪わないでちょうだい」
「……輝夜、あんた……」
「話はそれだけ。邪魔したわ、それじゃ」
「……待ちなさい!」
「……何よ?」
「その。…………ありがとう」
消え入りそうな声ではあったが、妹紅は呟いた。
「……その台詞は、あんたがこの試合勝つまで取っておくわ。
 だから……期待してるわ、妹紅」
それだけ言って、輝夜は去っていった。
「……」
「……妹紅」
「……分かってる。まさか、あいつにまで期待されるなんてね……。
 こりゃいよいよもって負けられないわ。
 慧音、やっぱりちょっと無茶しちゃうかもしれないけど、許して?」
「……はぁ、やれやれ。言ってもどうせ聞かないんだろうしな。
 せめて、程々にな?」
「了解。っと、もうこんな時間。そろそろ行くわ」
「ああ――私も、期待しているからな、妹紅」
慧音に見送られて、妹紅はステージへの通路を歩き始めた。

「さぁて、不死鳥の戦い、とくと目に焼き付けてあげるよ、悪霊め!」










 魅魔の、控え室。
「……どれ、もう少しかねぇ」
時計を見て、魅魔は呟いた。
と。ドアがノックされ、
「魅魔様、入るぜー」
見慣れた愛弟子……魔理沙が入ってきた。
「魔理沙、来てくれたのかい」
「さすがに師匠を見送りに来ないほど薄情な弟子じゃないぜ、私は。
 で、調子はどうなんだ?勝てそうか?」
当然、力強い返事が返ってくるものと思っていた魔理沙。
……だが。魅魔の反応は意外だった。
「……どうだろうね、私も第一線を退いて久しいからねぇ。
 昔のように戦えれば大丈夫だろうけど、そううまくいくかどうか」
珍しく物憂げな表情で語る魅魔。
魔理沙は予想外のことに驚き、慌てた。
「ちょ、しっかりしてくれよ魅魔様、そんな弱気な表情は似合わないぜ」
「……」
「魅魔様にはさ、こう、もっとどーんっと構えていてほしいんだよ。
 前の大会の時だって、そうだっただろ?」
「……」
「最初の試合でも……私との、試合でも、魅魔様はいつも堂々としてた。
 弱気な魅魔様なんて、見たくないぜ、私は……」
「……」
「だからさ、なぁ……元気出してくれよ、魅魔様ぁ……」
魔理沙の声にも元気がなくなっていく。

 そのまま、沈黙が流れるかと思われた、そのとき。
「……っく」
「え?」
「……くっくっくっ、あーはっはっはっは!」
「魅魔、様……?」
「あー、笑った笑った、面白かった。
 こうもあっさり引っかかってくれると騙した甲斐があるよ、魔理沙」
「……っな!?さっきのは嘘だったのか!?」
「当たり前だろう?腐ってもあんたの師匠だよ?
 幾ら第一線を退いたといっても、戦いの前に弱気になるほど落ちちゃいないよ」
「……ちぇっ、一本取られたぜ」
「あはは、ごめんねぇ魔理沙。
 でもまぁ、それだけ強く慕ってもらえて、嬉しいよ。これは本当」
「……まぁ、私だって、腐っても魅魔様の一番弟子、だからな」
「こらこら、あんたはまだ腐るには百年早い。
 ……っと、いけない、もう時間だよ。それじゃ、魔理沙」
ステージへ向かうべく、控え室の扉を開く魅魔。
その背中へ向けて。
「あぁ、応援してるぜ、魅魔様!」
魔理沙は、精一杯の声援を送った。

「さぁ、古の祟り神の力、とくと思い知らせてあげるよ、蓬莱人!」