「……そろそろ、時間ですね」 ここは、魂魄妖夢の控え室。 出撃のときを待つ妖夢の側には、幽々子の姿もある。 「妖夢、いけそう?」 「ええ、体調は万全です。23時間、戦い抜いて見せますよ」 「……私の試合のとき、私の言ったこと、覚えてるわよね」 「……勿論です。 また幽々子様と同じ舞台に立つことを目標に、 まずこの一戦、がむしゃらに、何が何でも勝ちに行きます」 「うふふ、いい気合ね、妖夢。 ……でも」 びにょ〜ん。 次の瞬間、幽々子の両の手によって、妖夢の白い頬が横に引っ張られた。 「にゃ、にゃにふるんでふか〜〜〜っ!」 突然のことにびっくりしつつ、 引っ張られて真っ赤になった頬をさすって、涙目になる妖夢。 「気合の入り過ぎは駄目。妖夢の悪いクセよ? いい加減、もうちょっと気を楽に持つことも覚えなさいな」 そう言ってにっこりと微笑む幽々子。 その笑みに少し気恥ずかしくなって、また頬が赤くなる妖夢。 「気楽に、ですか……」 「そうそう、リラックスリラックス。 肩の力を抜いて、深呼吸よ〜」 言われるまま、目を閉じて肩をほぐし、息を深く吸い込んで、吐き出す。 「……」 「どう?大丈夫?」 「……少し、体が軽くなったような気がします。ありがとうございます、幽々子さま」 言って微笑む妖夢と。 「それは何より」 それにまた微笑で応じる幽々子。 「さて、それじゃ、行ってきますね」 「応援、してるからね」 「はい!」 元気良く控え室から駆けていく妖夢。 その後ろ姿を見送りながら、 「妖夢、あなたなら大丈夫……しっかりね」 幽々子は、そう一人ごちた。 「あーーーーっ、疲れたぁ……」 通路に戻ってくるなり、蓮子はぐったりと近くの椅子にへたりこんでしまった。 「蓮子、大丈夫?」 「あー、まぁ、なんとか……でも、さすがにきつかった、かな。 はは、やっぱ、いきなりで勝とうってのは虫が良すぎたなぁ……」 「でも凄かったよ蓮子、ぶっつけであれだけ戦えたら十分だって」 「……お褒めの言葉、ありがと。 はー、でも、疲れたし、負けちゃったけど……物凄く楽しかった。 貴重な体験ができた、って感じ。 ……だから、さ、メリー」 「?」 「メリーも、これからの勝負、楽しんできなよ。思う存分。 こんな経験、滅多に出来るもんじゃない……っていうか、 きっともう出来ないだろうから、さ」 「……うん、わかった。 勝ち負けは別にして、まずは貴重な体験を楽しんでくることにするわ。 じゃ、蓮子、私、そろそろ行くわね」 「あぁ……行ってらっしゃい」 互いに軽く手を振り合ってから、メリーはステージへ向けて駆けていった。 一人、通路に残された、蓮子。 「……紫さん、いるんでしょ?」 そう呟くと。 「あら、よく分かりましたわね」 にゅう、っと横の空間が開いて、紫が顔を覗かせた。 「……なんとなく、そんな気がしただけですよ。 これ、お返しします。ありがとうございました」 そう言って蓮子は、昨日渡された白紙のスペルカードを差し出した。 「えぇ、お疲れ様。 にしても、勝負を見たけど、あなた、いいセンスしてたわよ。 場数を重ねていけば、もっともっと強くなれると思うけど」 カードを受け取ってスキマにしまい込みながら、紫は言った。 「そんな、よしてくださいよ紫さん、たまたまです。 ……大丈夫でしょうかね、メリーは」 「さあ……相手の子を私はよく知ってるけど、かなりの腕よ? ぶっつけ本番だし、厳しい勝負になるとは思うけど、 まぁ、少なくとも死にはしないわよ。これは遊びなんだし」 「……そうでした。遊び、なんですよね、これは。 ……すいません、少し、眠くなってきました。ちょっとだけ、眠らせてもらいます」 「分かったわ。今は、ゆっくりと、おやすみなさい、旅人さん」 そう言って紫は、スキマの中へと姿を消した。 「……頑張れ、メリー……」 通路からステージのほうを見やり、それだけ呟いて。 蓮子は帽子を目深に被り直し、束の間の休息へと意識を落とした。 |