【第2回東方最萌 2回戦 森近 霖之助 vs 鈴仙・優曇華院・イナバ】
(初出:第2回東方最萌板「第2回東方最萌トーナメント 13本目」891・895)

「まったく、何でこんなことになったんだか……僕は戦いは苦手なんだがなぁ」
控え室にて、香霖堂の店主・森近霖之助は誰にともなく呟いた。
数日前、いきなり呼び出されて訳も分からぬまま「競え」と言われ。
大したこともしていないのになぜか「予選突破だ」と祝福され。
そして気がつけば、いつの間にかトーナメント表の一角に自分の名前が並んでいた。
「はぁー……ま、『これ』も持ってきたし、やるだけやるしかないか」
と、コンコンと、ドアのノックされる音。
「? はい、開いてますよ?」
がちゃり、とドアが開いて、顔を覗かせたのは。
「霖之助さん、調子はどう?」
「兎にやられる覚悟はできたかー?」
霊夢と、魔理沙だった。
「君たちか……見ての通りさ、未だに困惑中だよ」
「まぁ、予想はしてたけどな……香霖が戦うとこなんて想像も出来ないぜ」
「確かに、武闘派、って感じじゃないわよねぇ。
 でも、意外とそういう人が戦うと強かったりして、ねぇ」
「はは、馬鹿言っちゃいけないぜ霊夢。だって、香霖だぞ?絶対ありえない。
 第一、そんなに香霖が強かったら、私は魅魔様より先に香霖に弟子入りしてるぜ」
「……君たちは激励に来たのか馬鹿にしに来たのかどっちなんだ」
「「両方(ね・だな)」」
「……やれやれ、つきあってられないな。僕はもう行くぞ、時間だからな」
立ち上がり控え室を出ようとする霖之助。と、魔理沙が何かに気がついた。
「……ちょっと待て、香霖。その腰の剣、いつぞや私が恵んでやったやつか?」
「恵んでやった、とは随分な言い草だな。正当な対価だったはずだろう」
「まさかそれ使って戦う気か?
 庭師じゃあるまいし、いくらボロとはいえ、素人にゃ真剣はヤバ過ぎるぜ」
「分かっている、こいつは持ってるだけだ。抜いて戦うような真似はしないさ。
 僕にはあいにく剣術の心得はないし、ね」
「抜きもしない剣をわざわざ下げていくなんて、理解できないぜ」
「まぁ、言うなれば、お守り、だな。……せっかく魔理沙がくれた剣だし、な」
「な……ッ!おい、それはどういう……!」
「それじゃ、行ってくるよ」
意地の悪そうな笑みを浮かべて、部屋を出て行く霖之助。
後に残されたのは、
「……へぇ〜、あんたもなかなか隅に置けないわねぇ」
これまた意地の悪い笑みを浮かべる霊夢と、
「……う、うるさいっ!わ、私は、そんなっ……!」
顔を真っ赤にした魔理沙だけであった。

 実際、霖之助の「お守り」という発言は、冗談でもなんでもない。
その剣――草薙の剣は、剣としては言うまでもなく絶大な力を持っているが、
それと同時に、持っているだけで持ち主を守り、その霊力を高める役割も果たしてくれる。
非力な霖之助にとっては、戦いとなるとこの剣の与えてくれる力だけが頼りなのだ。
もっとも、「魔理沙がくれた剣だし、な」という発言のほうは、
九分九厘が悪戯心からきた冗談であることは言うまでもない。
……では、残りの、一厘は……?それを知るのは、霖之助ただ一人である。

「さて、それじゃ、行くとするか、兎狩りへ」










「ウドンゲ、準備はいいかしら?」
「はい、いつでもOKです」
ウドンゲこと、鈴仙の控え室。
「そういえば師匠、今日の私の相手って、男の人らしいですけど、
 どんな人か、ご存知ですか?」
「んー、そうねぇ。霊夢や魔理沙に教えてもらってあの人の店に行ったことあるけど、
 本好きの文化人、って感じで、あんまり戦い慣れはしていない風だったわ」
「……それはつまり、弱そう、ということですよね……ほっ……」
鈴仙は安堵の入った眼差しで永琳を見やる。当然だが、その目に狂気は込めていない。
「こらこらウドンゲ、いつも言ってるでしょ?
 相手の力量を見た目で決めてかからないの。痛い目を見ることになるわよ?」
「ご、ごめんなさい」
「分かったなら、ほら、そろそろ時間よ。行ってらっしゃい」
「あ、本当だ……それじゃ、行ってきますね、師匠、姫」
「健闘を、祈っているわ」
「私の分も、任せたわよ、イナバ」

 控え室を出てステージへ向かう鈴仙。と。
「……あら?てゐ?」
通路に、永遠亭の兎、因幡てゐの姿があった。
「控え室にいないからどこ行ったのかと思ってたけど。どうしたの?」
「……今はあんまりえーりんに会いたくないから」
「……次の、試合のこと?」
こくりと頷くてゐ。
「控え室にいると、ついそのこと考えちゃって、つらいから……。
 でも、れーせんには、応援してるってこと、伝えたくて、
 だから、ここで、待ってたの」
「てゐ……」
きゅっ、と鈴仙の胸が熱くなる。
次の瞬間、思わず、鈴仙はてゐの体を抱きしめていた。
「……ありがとうね、てゐ。私、頑張るから」
「うん、れーせん、勝ってね、絶対……。
 ……そして、次は、わたしと……」
「え?」
「う、うーんっ、なんでもないのっ!
 それじゃ、応援席で見てるからねーっ!」
それだけ言って、てゐはさっと体を離すと通路を駆けていってしまった。
「ちょ、ちょっと、てゐー!? …………」
後に残された鈴仙は、今の一言を頭の中で反芻する。
私のこの耳がおかしくなっていなければ。
あの子は確か「次は、わたしと」と言った。
その意味するところは、つまり……今日、私が、勝って、
そして、明日……そういう、ことなのか?
「……あ、あはは、まさか、ねぇ。考えても仕方ないよね、うん」
とりあえず、そのことは脳内の隅のほうに追いやって。
ひとまずは、自分を応援してくれた、その事実に対して。
「……ありがとう、てゐ」
鈴仙は一人、つぶやいた。

「さぁて、哀れな店主さんに、月の狂気を見せてあげるとしましょうか」