【第2回東方最萌 霊夢退場SS】
(初出:第2回東方最萌用あぷろだ(小物向け) thm20023.txt)

「勝者、アリス・マーガトロイド!」
会場に勝者を告げるアナウンスが響いてから、数刻後。
霊夢は、疲れた体を引きずるようにして通路を歩いていた。

 ―――前の大会のとき。
自分を倒して決勝に上がった幽々子を激励に行ったとき、自分はこう言った。
「勝負ってのはたまに負けるから面白いのよ。
 ずっと勝ってばっかりでも、つまんないわ」
あれは、強がりでもなんでもなく、正真正銘、自分の信条である。
だから、今回もそのたまの負けが起こった、それだけに過ぎない。
―――ただ、余りにも早く起こり過ぎてしまった、そんな気がするだけで。
「はぁ全く、私もヤキが回ったかしらね……」
霊夢は誰にともなく、自嘲するように呟いた。

 と。
「……霊夢……」
「あ、魔理沙……」
通路で待っていた魔理沙にばったりと出くわした。
二人の間を気まずい沈黙が包む。
「霊夢……あの、さ」
「ごめん魔理沙、あんたの願い、叶えられなかった」
意外にも、笑みさえ浮かべて霊夢は言った。
「……霊夢、お前……」
「悪いけど疲れてるから、ちょっと控え室で休んでくわ。
 あんたの試合は後で見に行くから、せいぜい頑張りなさいね」
「お、おいっ、霊夢、待てよ……」
「じゃね」
手を伸ばす魔理沙の横を、するりと通り抜けて。
霊夢は心なしか足早に、控え室の方向へと消えていった。
「…………くそっっっ!!!」
残された魔理沙は苛立たしげに、近くの壁に腕を叩き付けた。
「霊夢……お前、私に詫びるだけなのかよ!
 お前は、悔しくないってのかよ!くそぉっ!!!」
魔理沙は、しばらくそのまま一人立ち尽くしていた。

 やがて。
魔理沙は自らの試合に向かう為、ステージ近くの通路までやってきた。
と。
「……魔理沙」
後ろから聞こえた声に、視線だけを向ける。
「……アリスか」
そのまま、視線だけが交錯する時間。
……と、魔理沙が唐突に笑みを浮かべて言った。
「……とりあえず、おめでとう、と言っておくぜ、アリス」
「き、今日はやけに素直ね……まぁ、ありがとうと言っておくわ」
「……けどな、アリス」
不意に声の調子を落とし、魔理沙はアリスに向けていた視線を再び前に向けて、言う。
「分かってるとは思うが、今日、霊夢を倒したことで。
 お前は確実に、一部の参加者から狙われる存在になった。
 ……勿論、私にも、だ。それは、分かっているよな?」
「……」
「だからアリス。お前の次の試合、絶対に勝て。
 私もこの試合と次の試合、必ず勝って、お前のもとに行く。
 ……どうやら、私のこのもやもやは、お前と直接やるまでは治まりそうにない」
「……」
「それだけだ。……じゃ、私は行くぜ」
そのまま、アリスの方を振り返ることなく、魔理沙はステージへ歩を進めた。
残されたアリスは、一人―――呟いた。
「……ふん、言われるまでも、ないわ。
 勝つということは、倒した相手の想いを背負う、ということ。
 そうである以上、私は、負けるつもりは、ないわ。
 魔理沙、たとえあんた相手でも、ね……」

 そのころ。
一人、控え室に戻ってきた霊夢。
とりあえず明かりをつけ、湯を沸かし、茶を入れる。
湯飲みに口をつけ、ずず、と一口すすってから、顔を上げて、呟いた。
「はぁ……もう少し、長く、やっていたかった、なぁ」

 ―――ぽたり。
そのとき、一粒の雫が、湯飲みの水面に波紋を描いた。
その雫が、いったい、何であったのか。
それは、当の霊夢にも、分からなかった。



―――博麗 霊夢、

―――――2回戦にて、最萌の舞台から退場す。