「勝者、アリス・マーガトロイド!」 会場に勝者を告げるアナウンスが響いてから、数刻後。 霊夢は、疲れた体を引きずるようにして通路を歩いていた。 ―――前の大会のとき。 自分を倒して決勝に上がった幽々子を激励に行ったとき、自分はこう言った。 「勝負ってのはたまに負けるから面白いのよ。 ずっと勝ってばっかりでも、つまんないわ」 あれは、強がりでもなんでもなく、正真正銘、自分の信条である。 だから、今回もそのたまの負けが起こった、それだけに過ぎない。 ―――ただ、余りにも早く起こり過ぎてしまった、そんな気がするだけで。 「はぁ全く、私もヤキが回ったかしらね……」 霊夢は誰にともなく、自嘲するように呟いた。 と。 「……霊夢……」 「あ、魔理沙……」 通路で待っていた魔理沙にばったりと出くわした。 二人の間を気まずい沈黙が包む。 「霊夢……あの、さ」 「ごめん魔理沙、あんたの願い、叶えられなかった」 意外にも、笑みさえ浮かべて霊夢は言った。 「……霊夢、お前……」 「悪いけど疲れてるから、ちょっと控え室で休んでくわ。 あんたの試合は後で見に行くから、せいぜい頑張りなさいね」 「お、おいっ、霊夢、待てよ……」 「じゃね」 手を伸ばす魔理沙の横を、するりと通り抜けて。 霊夢は心なしか足早に、控え室の方向へと消えていった。 「…………くそっっっ!!!」 残された魔理沙は苛立たしげに、近くの壁に腕を叩き付けた。 「霊夢……お前、私に詫びるだけなのかよ! お前は、悔しくないってのかよ!くそぉっ!!!」 魔理沙は、しばらくそのまま一人立ち尽くしていた。 やがて。 魔理沙は自らの試合に向かう為、ステージ近くの通路までやってきた。 と。 「……魔理沙」 後ろから聞こえた声に、視線だけを向ける。 「……アリスか」 そのまま、視線だけが交錯する時間。 ……と、魔理沙が唐突に笑みを浮かべて言った。 「……とりあえず、おめでとう、と言っておくぜ、アリス」 「き、今日はやけに素直ね……まぁ、ありがとうと言っておくわ」 「……けどな、アリス」 不意に声の調子を落とし、魔理沙はアリスに向けていた視線を再び前に向けて、言う。 「分かってるとは思うが、今日、霊夢を倒したことで。 お前は確実に、一部の参加者から狙われる存在になった。 ……勿論、私にも、だ。それは、分かっているよな?」 「……」 「だからアリス。お前の次の試合、絶対に勝て。 私もこの試合と次の試合、必ず勝って、お前のもとに行く。 ……どうやら、私のこのもやもやは、お前と直接やるまでは治まりそうにない」 「……」 「それだけだ。……じゃ、私は行くぜ」 そのまま、アリスの方を振り返ることなく、魔理沙はステージへ歩を進めた。 残されたアリスは、一人―――呟いた。 「……ふん、言われるまでも、ないわ。 勝つということは、倒した相手の想いを背負う、ということ。 そうである以上、私は、負けるつもりは、ないわ。 魔理沙、たとえあんた相手でも、ね……」 そのころ。 一人、控え室に戻ってきた霊夢。 とりあえず明かりをつけ、湯を沸かし、茶を入れる。 湯飲みに口をつけ、ずず、と一口すすってから、顔を上げて、呟いた。 「はぁ……もう少し、長く、やっていたかった、なぁ」 ―――ぽたり。 そのとき、一粒の雫が、湯飲みの水面に波紋を描いた。 その雫が、いったい、何であったのか。 それは、当の霊夢にも、分からなかった。 ―――博麗 霊夢、 ―――――2回戦にて、最萌の舞台から退場す。 |