【第2回東方最萌 魔理沙退場SS】
(初出:第2回東方最萌用あぷろだ(小物向け) thm20052.txt)

「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……はぁ……」
両者、死力を尽くしての、激闘。
「次で、決めにするか……フラン」
「そう、だね……これで、最後」
言ってレーヴァテインを構え直すフランドール。
「なら……受け取れ!これが私の、最後の全力だ!
 ブレイジング・スター!」
手にした箒に跨り、最後の必殺スペルを発動する。
星屑を撒き散らしながら、フランドールに突撃する魔理沙。
「たぁぁぁぁっ!」
向かってくる魔理沙めがけ、フランドールもレーヴァテインを振り下ろす。
―――それは、一瞬の、交錯。
その、次の、瞬間。
フランドールの横を通過した魔理沙が、一気に失速。
そのまま、ステージへと落下した。
「……見事だぜ、フラン……私の、負けだ」
ステージに大の字に倒れ込んだまま、それだけ言って―――魔理沙は気を失った。
「そこまで!勝者、フランドール・スカーレット!」
会場に、勝者を告げるアナウンスが響き渡った。

 それから、数刻後。
どうにか意識を取り戻した魔理沙は、控え室へと続く通路を歩いていた。
と。
「……魔理沙」
「ん、アリス、か……。
 ……はっ、無様だよな……昨日あれだけ盛大にお前に啖呵切っておいて、
 蓋を開けてみりゃこのザマだ。次どころか、目の前すら越えられなかった」
自嘲気味に魔理沙は吐き捨てる。
「……」
「……なんだよ、言いたいことがあるならさっさと言え。
 笑いたいか?なら笑うがいいさ、私は負けた、それだけが事実だ」
「……いい勝負、見せてもらったわ。お疲れ様」
「……へっ、なんでぇ、安っぽい慰めなんて、ごめんだぜ……。
 だが……ここはありがたく受け取っておくと、するぜ」
「これ、あげるわ。一足先に去りゆくあんたに、せめてもの餞別、よ」
そう言ってアリスが差し出したのは1本の瓶。
「……こりゃ、酒―――水道水、か」
「どうせあんたのことだから、これから自棄酒でしょう?」
「ふん、よく分かってるな。そのつもりだったぜ、確かに。
 まぁこの際だ、くれるもんは貰っておくぜ……ありがとな、アリス」
最後の部分は呟くように言って、魔理沙は再び控え室への道を歩き出す。
「じゃ、私は戻るぜ。お前はこの先、頑張れよ―――厳しい戦いになるだろうが、な」
「……承知の上よ。都会派魔法使いがあんたの思ってるほどヤワじゃないってこと、
 この先の戦いで証明してあげるわ」
「せいぜい楽しみにしてるぜ……じゃ、な」
それだけ言って、帽子を目深に被り直し、魔理沙は通路の奥へと消えた。
帽子の下の、顔は―――。
それを知ってか、知らずか、アリスは呟いた。
「全く、変なところで素直じゃないんだから―――私も、ね」

 通路を歩きながら、魔理沙は思った。
昨日の、負けたというのに妙に淡々としていた霊夢の行動。
あの意味が、少しだけ今の自分には、分かる。
決して、悔しさがないわけでは、なかったのだ。
ただ、悔しさに負けないだけの充実感と、ほんのちょっとの強がりが。
人前で弱さを見せさせなかった、そういうこと、なのだろう。
「……へっ……一人になった途端に……泣けてきやがった、ぜ……」
足を止め、しばし魔理沙は一人、涙を流した。

 控え室の前まで、やってきた。
「魔理沙、お疲れ様」
「……霊夢か。あぁ、疲れたぜ」
笑う魔理沙。もうその目に涙は、ない。人前で、涙は、見せない。
少しだけ赤くなった目で察されたかもしれないが、
まぁ、そのくらいは、こいつにならいいだろう。
「……終わっちゃったわね、お互い」
「そうだな。まぁ、ここからはまた、見て応援して楽しむとしようぜ。
 それより……」
そこまで言って、魔理沙は水道水の瓶を取り出した。
「ちょっと上がってけよ。どうせ、時間、有るんだろ?
 飲もうぜ。2人だけの、お疲れ様会だ」



―――霧雨 魔理沙、

―――――2回戦にて、最萌の舞台から退場す。