「藍、覚えているかしら?」 「何を、です?紫様」 「ずーっと、昔……私たちが出会ったときの事」 「……えぇ、覚えていますとも。 はぐれ天狐だった私は、紫様、あなたと出会い、戦い、 そして―――敗れ、あなたに忠誠を誓った」 「そう。あの時あなたはこう誓った。 『一生、八雲紫に式として従い、尽くす』……と、ね」 「……懐かしい、話です」 「それで、なんだけどね、藍」 「? 何でしょう?」 「主として、命じるわ、藍。 これから23時間、勝負が終わるまで、その誓いはなかったものとし、 私の式でなかった頃のあなたに戻り、私と全力で勝負すること」 「!! 紫様!?」 「当たり前でしょう?そうでもしないと、あなたは絶対手心を加える。 せっかくの勝負の機会で、そういうことはして欲しくないの」 「しかし……!!」 「もう、融通が利かないわねぇ。なら……実力行使ね」 そう言ってスキマに手を突っ込む紫。次の瞬間。 「……ちょっ、やっ!? 紫様、何を!?っひゃあ!?」 なにやら、藍の様子がおかしい。 「……よっ、と。はい、取れましたー」 やがて、紫がスキマから札を取り出した。どうやら藍に憑けていた式のようだ。 ……どこに貼られていたのかは紫と藍だけの秘密である。 「うぅ、紫様ぁ……」 久々に式が取れて、どことなく心細そうな藍。 「勝負が終わるまでこれは没収よ。 これで、あなたを式として縛るものはなくなった。 もうあとは藍、あなたの心持ち次第……さぁ、どうする?」 「…………」 「藍」 「……わかり、ました」 決意したように顔を上げてそう言い、藍は頭の帽子を脱ぎ捨てた。 「紫様……いや、八雲紫。 この藍、これから23時間、八雲の姓を捨て、 今一度、はぐれ天狐として、あなたと全力で戦うことを……誓う!行くぞ!」 「そう、それでいいわ、藍! さぁ、来なさい!どれだけ力をつけたか、見せてもらうわ!」 |