「the Last Judgement」
23:50:00――観客席の、一角にて。 「いよいよ、決勝ですね、姫」 「そうね、永琳。ふふ、楽しみな、一戦だわ。 長いと思っていた大会も、あっという間よね、こうしてみると」 「全くですね。毎日が、お祭り騒ぎで。久し振りに盛り上がりました……」 「ほんと、いいお祭りだったわ。それも今日で終わりと思うと、寂しいけど、ね」 「……祭りは、終わるからこそ、楽しいのですわ」 「……そうね、そういうものかも、しれないわね」 と。 「姫ー!」 鈴仙とてゐが駆けてきた。……妹紅と慧音を連れて。 「えーりん、ひめ、2人を連れてきたよ」 「ご苦労様、てゐ」 「……で? 一体何なのよ、わざわざ呼びつけるなんて。何を企んでるの?」 妹紅は早くも臨戦態勢である。 「まぁまぁ、落ち着け、妹紅。 ……で、実際、何の用なんだ、輝夜よ?」 「別に。大した用があったわけじゃないわ。 ただ、祭りを一緒に楽しむ人数は少しでも多いほうがいい、そう思っただけ。 どうせあんたたち、2人だけで寂しく見る予定だったんでしょう?」 「……ふん、そんなの、大きなお世話だっての」 むっとした表情で悪態をつく妹紅。 ……が、不意にその表情が、ふっ、と緩んだ。 「まぁ、いいや。祭りに免じて今日だけは一緒に観戦してやるよ、特別に」 そう言って妹紅は輝夜の隣に腰を下ろした。 と、輝夜が、盃を差し出した。 「さ、飲みなさいな。……毒なんか入ってないから」 「……」 黙って盃を受け取り、ぐっと飲み干す妹紅。 「ふん……いい、酒ね」 「それは何より」 ふふ、と笑みを交わす、輝夜と妹紅であった。 「……なんていうか、凄く珍しい光景ですね」 「ん、すごく、めずらしいの」 2人を眺めながら鈴仙とてゐが言う。 「また大会が終わったらいつもの2人に戻るわよ、心配しなくても」 「いやあの師匠、戻っちゃったら駄目なんじゃ……」 と、 「……永琳」 永琳に話しかける声は、慧音。 「……何かしら?」 「……ありがとう、な。妹紅の分も、礼を言う」 「……礼を言うのは、むしろこっちの方よ。姫の分も、ね」 23:52:00――観客席の、別の一角にて。 「ゆ、幽々子さま〜……ご所望のお団子と桜餅、お持ちしました〜……」 大量の和菓子の箱を抱えて、妖夢がよろよろと幽々子のもとへと歩いてきた。 「お疲れ様、妖夢」 幽々子は妖夢にねぎらいの言葉をかけつつ、さっそく桜餅をひとつ手に取った。 「にしても、本当にこんなにお食べになられるんですか……?」 「そのつもりよ〜。大丈夫、美味しいお茶さえあれば、このくらいぺろり、よ」 「……はぁ」 「ゆっくりお茶とお菓子を味わいながら見る決勝……きっと素晴らしいわ」 「……あの、幽々子さま」 「? なに?」 「前回立っていたあの場に、立てぬこと……悔しくは、ありませんか?」 「……そうねぇ、悔しくないと言えば嘘になるかもしれないけど。 でも、面白い勝負が、できたから。満足してるわ。 それにほら、前に言われたじゃない、『勝負はたまに負けるから面白い』って」 そう言って、にっこりと笑う幽々子。 「……そうかも、しれないですね」 妖夢も、応じて穏やかな表情を浮かべる。 「さぁ、分かったなら妖夢も食べなさい」 そう言って幽々子は、団子をずずいっ、と差し出した。 「あ、いえ、私は」 「こらこら妖夢、こういう場は楽しんだ者勝ちよ? たまには肩の力を抜いて、祭りの最後を楽しみなさいな」 「……はい、分かりました」 団子を受け取ろうと、妖夢は手を伸ばした――が。 「では頂きますわ」 横から突如現れた手が、団子を掠め取った。 手を伸ばしたまま、一瞬フリーズする妖夢。 「……ゆ、紫様〜〜〜」 「うふふ、お邪魔するわね、妖夢、幽々子」 団子を手に、八雲紫が、スキマから姿を現した。 更にその後ろでは、 「ほら、橙、お団子と桜餅だぞ〜」 「わ〜い、ありがとうございます藍さま〜〜」 いつの間にやら藍と橙の式神主従が団子と桜餅を食べ始めていた。 「……うふふ、賑やかになったわねぇ。お団子と桜餅もこの人数ならあっという間ね。 それじゃ妖夢、10箱ずつ追加よろしく〜」 「え〜、また行くんですかぁ……はぁ、分かりましたよ、もう。急いで行ってきますね」 妖夢は肩を落としつつ、通路へと小走りに駆けていった。 「……ま、こんなときくらいは、いいかな」 そう、呟いて。 23:54:00――観客席の、また別の一角にて。 「ルーミア、あんた、どっちが勝つと思う?」 「んー、私はあのメイドさんかなぁ……ね、リグルは、どう思う?」 「わ、私? うーん、あの門番の人もなかなかやりそうな気がするけど」 「ふ、ふんっ、私はどっちが勝ったって構わないんだから! 本当はあそこには私が立ってるはずだったのよ! こ、今回は、そうよ、舞台を譲ってやったのよ、あははっ!」 「「「ふーん……(じとー)」」」 「な、なによぅ」 「そーねー、チルノは強いわねー、ねールーミア」 「そーだねー、ねーリグル」 「うんうん、そーだねー」 「……きーっ、あんたらぜんぜん感情がこもってないわよー!!!」 客席で賑やかに談笑(?)する、ルーミアとチルノ、リグルとミスティア。 「チルノ……」 そんな4人を、少し離れたところから見つめる、レティ・ホワイトロックの姿。 その眼差しは――どことなく、物憂げ。 「あの、レティさん。ちょっと」 背後の声に振り向くと、大妖精と、リリーホワイトの姿。 「ん、あんたたちか。どしたの?」 「……レティさん。この試合、終わったら、行って、しまうんですね」 「……ふぅ、やっぱ、あんたにはばれちゃったか。 まあ、もう3月も半ばだし、前みたく出ていけなくなっても困るからね。 今からの決勝、せめてもの土産として目に焼き付けたら、私は行くよ。 後のことは、リリー、あんたに任せる」 「レティさん……」 「そんな辛気臭い顔しないの。死ぬわけじゃなし、また時が来たら帰ってくるわよ。 私が今気がかりなのは――チルノのことだけ。 まぁ、今見る限りじゃ、私がいなくなっても大丈夫だとは思うけど、やっぱり、ね。 だから2人とも、私が行ってから、チルノのこと、宜しく頼むわね」 そう言って笑うレティに、 「「……はい!!」」 リリーと大妖精は、笑顔で、応えた。 23:55:00――観客席の、また別の一角にて。 「あと5分か……もうすぐだな」 「そうね……ってこらこら萃香、あんた始まる前から飲みすぎじゃないの?」 「え〜、いーじゃ〜〜〜ん、せっかくのお祭りなんだしぃ〜〜〜(ぐびぐび)」 「はぁ、あんたはもう……。 ちょっと、霖之助さんも何か言ってあげてよ……って」 霊夢が見やった先には、こちらも早くも盃に酒を注ぐ霖之助の姿。 「悪いが、僕ももうお先に始めさせてもらっているよ。 祭りは、楽しまなきゃ損だというものさ」 霊夢の冷たい視線を意にも介さず、優雅に盃を傾ける霖之助。……が。 「お〜、話がわかるなりんのすけ〜。ほら、もっと飲め飲め〜」 「わ、ちょ、さすがに1升瓶は(がぽっ)……ごぼがぼ、れ、霊夢、助け」 いつも以上にタチの悪くなった萃香に絡まれ、窮地に陥った霖之助を、 「ふん、いい気味よ。さっさと飲まれちゃいなさい!」 霊夢は、豪快に見放した。 と、そこへ。 「待たせちゃったわね」 「おまたせ しました」(ぺこり) 上海人形を従えて、アリスがやってきた。 「あー? 別に待っちゃいないぜ、お前なんぞ」 「何よ、随分とご挨拶ね。いつぞやの水道水の恩、忘れたの?」 「そんな大昔のことは忘れたぜ」 「まだ1ヶ月も経ってないでしょうが……。 そんなこと言う恩知らずには、これ、あげないわよ」 そう言ってアリスが取り出したのは、1本の酒瓶。 一目見て、魔理沙の目の色が、変わった。 「そ、それはもしかして、あれか!? あの銘酒『水道水』の中でも、最高級品といわれる……」 「その通り、『水道水 −カルキ抜き−』よ! 手に入れるの苦労したんだから」 「の、飲ませてくれ、頼む!」 「嫌よ、と言ったら?」 からかうような笑みを浮かべてアリスが言う。と、 「そのときは、仕方ないな……」 魔理沙は苦笑いを浮かべ、次の瞬間――、 「殺してでも、奪い取るぜっ!」 突如、アリスに襲い掛かった。がばぁっ、と。 「きゃ、な、何をするの魔理沙ーっ!」 ここに、1本の酒瓶をめぐり、肉弾戦(?)が、勃発した。 酔っ払い2人と魔法使い2人の馬鹿騒ぎに、挟まれて。 「はぁ、もう……やれやれ、だわ。私も飲んじゃおっと」 ひとつ小さくため息をついて、霊夢は、盃をあおった。 「……さて、どうなるのかしらね、この大騒ぎの結末は」 23:56:00――観客席の、また別の一角にて。 「ほらほら、パチュリー様、もうすぐ決勝始まっちゃいますよ!」 「ちょ、引っ張らないでー! 自分で歩けるわよー!」 小悪魔が、パチュリーを引きずるようにして、歩いてきた。 「あっ、おかえりー、2人ともー♪」 「随分と遅かったのね」 そこには、一足お先に優雅に構えているレミリアと、 そんなレミリアにじゃれついているフランドールの姿。 「すいませんお嬢様、お二人のところに激励に行っていたら、こんな時間に……」 「まったくもう……会場の端から端まで、結構あるのよ? だから私は二手に分かれて行こう、って言ったのに……」 「すいません、パチュリー様。でも、どちらも紅魔館にとって大切な人ですから、 どっちかだけ、っていうのはしたくなかったんですよ」 「まぁ、その気持ちは分からなくもないけどね。でも、始まる前から疲れちゃったわ」 フランドールの頭を撫でているレミリアの隣に腰を下ろしながら、パチュリーは続ける。 「そういえばレミィ、あなた今回は、激励、行かなかったのね」 「どっちに行ったって、有り体の言葉しか言えそうにないし、ね。 まさか両方に『勝て』とは言えないでしょ? それに、私が行くと戦う前から余計な気を使わせそうだしねぇ」 そこまで言って、くくっ、とレミリアは笑う。 「なるほどね……実はね、2人から、伝言を預かってきたのよ」 「へぇ? なんて?」 「それがねぇ……2人とも、一言一句、同じ言葉。 『私の勝利を、楽しみにしていてください、お嬢様』ですって」 それを聞いて、さも愉快そうに、レミリアは笑みを浮かべた。 「くっくっくっ、そりゃ何とも愉快だね。面白い。 いよいよもってこの一戦、楽しみになったよ。 勝負が終わったら、思いっきりねぎらってあげないと、ね」 「そうしてあげなさいな。2人とも、それを望んでいるわ、きっと」 レミリアとパチュリーは、顔を見合わせて、微かな笑みを交わした。 23:57:00――観客席の、また別の一角にて。 「やれやれ、この大会もこれで最後かい。また、寂しくなるねぇ」 「そうね……まあ、でも、久し振りに楽しい勝負ができたけど」 「確かに。ここ最近暇だったからね〜。いい刺激だったわ〜」 「……この大会、終わったら、また、私たちは暇になっちゃうのかねぇ」 「さぁ、ね。そうかも、しれないけど。 でも、また、遊びたくなったらふらっと出て来たらいいじゃないの。 私も、あなたたちも、ね」 「そうそう、別に、永遠の別れってわけでもないんだしさ」 「……そうだね。また、忘れられた頃におどかしてやるのも、いいかもしれないねぇ。 ……最後の一戦、素晴らしいものにしとくれよ、悪魔の従者さんたち」 23:57:20――観客席の、また別の一角にて。 「ねぇ、蓮子」 「なに、メリー」 「この大会、終わったら……どうするの?」 メリーの問いに、蓮子は帽子を目深に被り直して、答えた。 「……さて、どうしようかな。実は私も、決めてないんだけど」 「ちょ、ちょっと、そんなんでいいわけ?」 「さぁ、いいんじゃない?明日は明日の風が吹く、ってね。 終わった後の事は、終わったときに考えましょ。 それより今は、この決勝を楽しみましょうよ」 「まったくもう……でもまぁ、それもそうかも、ね。 決勝、凄い試合に、なるんでしょうね」 「あぁ――きっと、最高の弾幕ごっこが、見られるよ」 23:57:40――ステージの、脇にて。 「さぁ、もうすぐだぞ、準備はいいか、メルラン、リリカ?」 「準備OKよ、いつでもいけるわ、姉さん」 「こっちも大丈夫。まぁ、2回目だしね、この役目も。 ……でも、勝負じゃみんな緒戦負けだったし、 結局私たちって盛り上げ役がお似合いってことなのかなぁ」 「こらこらリリカ、弱気になるな。 今までの大会、お前も楽しんでたろう? それで、十分じゃないか。 勝ち負けの問題じゃないって。なぁ、メルラン?」 「そうよ〜。だから、最後までこの場を盛り上げて、 私たちも一緒に盛り上がりましょう、ね、リリカ?」 「……うん、ありがと。ごめんね、変なこと言って。 よ〜し、それじゃ、最高の盛り上げ役になるよ〜!」 「あぁ、その意気だ! さぁ、そろそろ、始まるぞ! スタンバイ!」 「「は〜〜〜い!」」 23:58:00――ステージに通じる、通路にて。 十六夜咲夜は、ひとりステージの方向を、見つめていた。 「やれやれ……ここまで来ちゃった、か」 前回の大会で一番最初に退場した自分が、今回こうして最後の舞台に立つ、ということに、 ある種の皮肉すら感じて、咲夜は苦笑した。 とはいえ、ここまでの4戦――人形師の使い魔の人形に始まり、 蓬莱の人の形、歴史喰いの半獣、そして境界の妖怪、と、 いずれにも決して楽な戦いは、させてもらえなかった。 その厳しい戦いを乗り越えて辿り着いた、この舞台だから、こそ。 決勝も、負けるわけには、いかない――そう咲夜は思った。 ――たとえ、相手がよく知るあの門番であっても、だ。 懐から愛用のナイフを取り出し、刃を見つめる。 鈍く光る刃先に映る、自分の顔。 刃の中の自分に向かい、ふっ、と軽く笑みをこぼしてから。 咲夜はナイフを再び懐にしまい込み、歩き出した。 「それじゃ、行きましょうか。全ての決着を、つけに」 23:58:30――ステージに通じる、もう一方の通路にて。 紅美鈴は、かつてない緊張の高まりを覚えていた。 それもそのはず、相手はあの、メイド長。 「咲夜さん……私は……」 それだけ呟いて、美鈴は、目を閉じる。 外界からの旅人に、冥界の剣士、春の精、そして――主の妹。 この大会で、数々の激戦を制してきたとはいえ、 決勝という大きな舞台に自分が立つことに、不安があるのも、事実。 けれど、ここまで勝ってきたからには、最後まで戦い抜くのが、礼儀というもの。 どうせ勝っても負けても、ここで終わるというのならば。 勝って、有終の美を飾ろう――たとえ、自分より上の相手であろうとも。 緒戦のとき、咲夜がかけてくれた言葉を、思い出す。 ――「平常心」。 それを思い出す意味で、 「すぅー…………はぁーっ」 大きく一つ、深呼吸――そして。 ぱぁんっ。 自分の両の頬を、強く叩いた。 「……よしっ!」 気合、十分に。美鈴は、ステージへ向けて歩を進めた。 「この試合……勝ちに行くっ!」 そして――23:59:00、ステージにて。 騒霊3姉妹のファンファーレ演奏に続き、 「これより、決勝戦を開催いたします!」 というアナウンスとともに、ステージの周囲以外から明かりが消えて。 暗闇の中、浮かび上がったステージの上に――今日の主役、2人の姿が、現れた。 「来たわね、このときが」 「えぇ、そうですね」 「あらかじめ言っておくけど……負けてあげる気は、ないからね」 「当然です。私も、負けるつもりは、ありませんよ」 「そう。それを聞いて、安心したわ。 ま、どっちが勝ってもいい、なんてことは言わないけれど、 お嬢様に、そしてこの会場の皆に恥ずかしくない試合を、しましょう、美鈴」 言いながら、ナイフを構える、咲夜。 「はい、咲夜さん――ぜひ、この大会の最後を飾るに、相応しい、試合を」 応じて、構えに入り闘気を高める、美鈴。 ――訪れた、刹那の、静寂。 ―――その、直後。 ――――参加者たちの、数多の想いが、渦を巻く、その中で。 ―― 00:00:00 ―― 「この銀の刃で――優勝への道、切り開いてみせる!」 「この紅の闘気で――頂点の前の壁、打ち破ります!」 第2回東方最萌トーナメント、最後の23時間が、始まった――! |