「運命夜 〜 Scarlet Dream...」 -Extra Ver.-
後夜祭が始まり、どんちゃん騒ぎが始まったトーナメント会場。 ひたすら騒ぐ者、ぐいぐいと酒を飲む者、食べまくる者。楽しみ方は、さまざまである。 そんな中、一人、トーナメント会場の喧騒を離れる者が、いた。 会場の外に出てきた彼女――冬の精、レティ・ホワイトロックは、 寂しげに、しばらく会場の方を見やって。 「……またね、チルノ」 そう呟いて――己の理に従い、どこへとも無い旅へ向かうべく、地を蹴った。 と。 「レティーーーーーっ!!」 後ろから飛んできた、聞き慣れた、声。 思わず振り返ったレティの目に飛び込んできたのは、チルノの、姿。 (あっちゃあ……見つからないように出てきたつもりだったんだけどなぁ) このタイミングで見つかってしまったことを悔やみつつ、レティは地に下りた。 「レティ、私に黙ってどこ行くのよ!」 「あ、いや、チルノ……その、ちょっと、ね」 どうごまかしたものか、と考えるレティ。 ……が、チルノの反応は。 「……わかってるよ。行っちゃうんでしょ? また」 「チルノ……分かってたの?」 「うすうす、ね。そろそろ、そんな時期だし。 でも……なら、せめてお別れのあいさつくらいしてから、行きなさいよ」 目に、涙を浮かべながら、チルノは、言った。 「……ごめん、チルノ。私も、辛くて、ね」 「なんにも言わずにいなくなられるほうが、こっちは辛いわよ……。 私だって、もう子供じゃないんだからっ……留守番くらい、できるわよっ……」 「そっか……チルノももう立派なレディーだもんね」 「……そーよっ……私は、れでぃーなのよっ……」 ぐしぐしと目を擦りながら、チルノは言う。 「……その様子ならほんと、私が行っちゃっても、大丈夫そうね。安心したわ」 「うん……私、待ってるから。また帰ってくるの、待ってるからっ……」 「チルノ……っ」 思わず、レティはチルノを抱きしめていた。 去りゆく冬の、最後を、惜しむように。 2人はしばらく、そうしていた。 ――やがて。 名残惜しそうに、レティは体を離した。 「ずっと、こうしてたいけど……ごめんね、もう、行くわね」 「……うん……元気で、ね」 「チルノも……それじゃ」 ふわっ、とレティは地を蹴り、浮かび上がって。 そのまま、真っ暗な空へと、飛んでいった。 その背中へ、向かって。 「レティーーーーーーっ!! またねーーーーーっ!!」 チルノはぶんぶんと手を振り続けて、いた。 やがて、レティの姿が、見えなくなった頃。 「チルノちゃん?」 後ろから声をかけてきたのは、大妖精。 「あ……ど、どしたの?」 なるべく平静を装って、チルノは答えた――真っ赤な、目で。 「……チルノちゃん……レティさん、行ったの?」 「……うん」 「そう……元気、出してね。また冬に、会えるから」 「わ、わかってるわよっ。悲しくなんて、ないんだからっ。 さ、また戻って、ご馳走、食べよ食べよ!」 「うふふ、はいはい」 大妖精を引っ張るように、チルノは会場へと小走りに戻っていった。 その想いを、内に秘めて。 (また来年、笑顔で会おうね、レティ……) ――幻想郷に、春が来る日は、もうまもなく。 |