【第2回東方最萌 PH戦】
(初出:第2回東方最萌板「第2回東方最萌トーナメント 65本目」843)

「運命夜 〜 Scarlet Dream...」 -Extra Ver.-

 後夜祭が始まり、どんちゃん騒ぎが始まったトーナメント会場。
ひたすら騒ぐ者、ぐいぐいと酒を飲む者、食べまくる者。楽しみ方は、さまざまである。

 そんな中、一人、トーナメント会場の喧騒を離れる者が、いた。
会場の外に出てきた彼女――冬の精、レティ・ホワイトロックは、
寂しげに、しばらく会場の方を見やって。
「……またね、チルノ」
そう呟いて――己の理に従い、どこへとも無い旅へ向かうべく、地を蹴った。

 と。
「レティーーーーーっ!!」
後ろから飛んできた、聞き慣れた、声。
思わず振り返ったレティの目に飛び込んできたのは、チルノの、姿。
(あっちゃあ……見つからないように出てきたつもりだったんだけどなぁ)
このタイミングで見つかってしまったことを悔やみつつ、レティは地に下りた。
「レティ、私に黙ってどこ行くのよ!」
「あ、いや、チルノ……その、ちょっと、ね」
どうごまかしたものか、と考えるレティ。
……が、チルノの反応は。
「……わかってるよ。行っちゃうんでしょ? また」
「チルノ……分かってたの?」
「うすうす、ね。そろそろ、そんな時期だし。
 でも……なら、せめてお別れのあいさつくらいしてから、行きなさいよ」
目に、涙を浮かべながら、チルノは、言った。
「……ごめん、チルノ。私も、辛くて、ね」
「なんにも言わずにいなくなられるほうが、こっちは辛いわよ……。
 私だって、もう子供じゃないんだからっ……留守番くらい、できるわよっ……」
「そっか……チルノももう立派なレディーだもんね」
「……そーよっ……私は、れでぃーなのよっ……」
ぐしぐしと目を擦りながら、チルノは言う。
「……その様子ならほんと、私が行っちゃっても、大丈夫そうね。安心したわ」
「うん……私、待ってるから。また帰ってくるの、待ってるからっ……」
「チルノ……っ」
思わず、レティはチルノを抱きしめていた。
去りゆく冬の、最後を、惜しむように。
2人はしばらく、そうしていた。

 ――やがて。
名残惜しそうに、レティは体を離した。
「ずっと、こうしてたいけど……ごめんね、もう、行くわね」
「……うん……元気で、ね」
「チルノも……それじゃ」
ふわっ、とレティは地を蹴り、浮かび上がって。
そのまま、真っ暗な空へと、飛んでいった。
その背中へ、向かって。
「レティーーーーーーっ!! またねーーーーーっ!!」
チルノはぶんぶんと手を振り続けて、いた。

 やがて、レティの姿が、見えなくなった頃。
「チルノちゃん?」
後ろから声をかけてきたのは、大妖精。
「あ……ど、どしたの?」
なるべく平静を装って、チルノは答えた――真っ赤な、目で。
「……チルノちゃん……レティさん、行ったの?」
「……うん」
「そう……元気、出してね。また冬に、会えるから」
「わ、わかってるわよっ。悲しくなんて、ないんだからっ。
 さ、また戻って、ご馳走、食べよ食べよ!」
「うふふ、はいはい」
大妖精を引っ張るように、チルノは会場へと小走りに戻っていった。
その想いを、内に秘めて。
(また来年、笑顔で会おうね、レティ……)


 ――幻想郷に、春が来る日は、もうまもなく。